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ピクシーとの想い出②【~馬にたずさわる人全てが調教者~ピクシー追悼回⑤】

2018/3/6

イベントから帰って来るのを待って。
当時、スタッフの数が少なく私達夫婦で時々ポニーを連れてイベントに行っていました。

夕方6時過ぎ頃イベントから帰ると、 道路沿いの厩舎の窓から顔を覗かせ鳴いていました。
でも、その厩舎の窓からは車の屋根しか見えないのですけど?

 

厩舎に顔を出すと大喜び!時にいつもと違った騒ぎ方をすることがありました。
足の上げ方がいつもの3倍位高く、人に例えるなら耳の横まで手を上げて”こっち来てー”と言わんばかりの動作をします。

きっと何かあったに違いないと思いスッタフに聞くとこんな時は必ず何かしら事故が起こっていました。
その事故が起こった場所に来ると、頭を高く上げ鼻を膨らませ”ブルルー、ブルルー”と言って”ここだよ、ここで事故が有ったんだよ”と言わんばかりに教えてくれます。
こんな事が今まで数回程ありました。

 

ピクシーの涙。
馬によってはよく目の周りを濡らしている子がいますが、ピクシーは普段全くその様なことがなく乾いた目をしていました。
ある時、ピーを馬繋場に繋いだ状態で妻がピーのブラシ掛けをしながら、私は馬の左側の馬繋柱の横に立って、ピーの正面にクラブの社長が立って3人で話をしていました。


その内容は以前、私達夫婦で調教をしていた芦毛馬でピクシーの隣の馬房にいて仲良しだった馬の話しです。
ピクシーはまるで自分もその話しに加わっているかのように静に話を聞きながら 、いちいち相槌を打っている様にも見えました。


話の終盤、その芦毛馬が蹄骨を骨折して死んでしまった事を話している途中、社長が突然 ”ピーが泣いてる” と大きな声で言うので私もピーの右目の方に回り込んで見ると確かに涙を流していました。
“えー、何でー” と言いながら妻の顔を見ると両目を真っ赤にして泣きながらピーのブラシ掛けをしていたのです。

妻の感情が伝わったのか、たまたま話しの内容にタイミングが合って涙が出たのか本当のところは誰にもわかりません。


でも私はピクシーは私達、少なくとも家族の感情を感じとっていたと確信しています。
同じような事がもう一回ありました。

 

ピクシーの最期
2017年10月11日 水曜日
私の前では元気に振舞っているのですが、この日はとてもつらそうに感じたので出来るだけ長い時間をピーの側に居てやるようにしました。
次の日が仕事でピーの所へ来ることができないのでスッタフへお願いして帰り際、もう一度ピーの所に顔を出して明日来れないことを伝えるとまた右目から涙を流したのです。
とても嫌な感じがしたのでこの時の事はすぐには妻にも話すことができませんでした。

 

2017年10月12日 木曜日
やはりしんどかったのか、寝てる事が多かった様です。
クラブに来ているピーの事が好きな女の子が寝ている所に行って草をあげたりしてくれていたようです。

 

2017年10月13日 金曜日
朝早くから寝たきりの状態です。
私が厩舎に入ると鳴いて馬房に行くと苦しみながらも起きようとしました。
このままではピーがぼろぼろになって苦しめてしまうと思い、今までお世話になった獣医さん、装締師さん、知り合いの獣医師 数人の意見を聞き妻に連絡して安楽死させることを相談しました。


夕方、厩舎の出入口に近い馬房に移すため無理にでも起こして移動させる必要があったので普通に無口を掛け ”ピー行くよ” と言うと必死で起き上がるのですが滑ってまた横になってを3回程繰り返してやっと立つことが出来ました。
急いで動かさないと立っていられないほどでした。何とか移動すると寝たまま出来なかったボロとオシッコをすることができピーも一息着いた感じでした。

 

ここでは立っていても筋肉を振るわせ、辛いと思うのですが寝ようとはしませんでした。
私が馬房の中にいるときは側に来ていつも通りの仕草で甘えてきます。


次男から電話があり、馬房の外で話をして ”テレビ電話にしてピーを写してや”とのこと。
切り替えると次男の声がスピーカーから流れたのを聞いたからかわりませんが、奥でじっとしていたピーが肢を引きずって声のする方へ来るので次男へピーもアップを見せることが出来ました。


そのあと、妻を駅まで迎えに出掛けるとピーはすぐに横になって寝てしまったそうです。

妻が馬房に着いて声を掛けるとビックリした様子で目をまん丸くして大喜び。起き上がろうとするのですが頭を持ち上げるのが精一杯でした。でも何回も起きようとします。
妻は涙ながら ”もういいよ、寝とき” と声を掛けると起き上がるのをやめ、妻の横でベッタリ寝ていました。30分程して獣医さんが来て処置をしてくれ、妻もいる中、本当に傷一つなくピカピカないつもの綺麗なピーのまま、逝く事が出来ました。

 

馬は私達が思っている以上に私達の心の奥底まで見抜いているのかもしれません。
あらためて、馬とは愛情を持って向き合っていかなければならないのだと考えさせられます。
このコラムの題名の“調教”とは直接的、具体的にはちょっと離れてしまったかもしれませんが、調教において最も大切な事であると思います。


平成30年3月
長谷川 雄二

 

 

 

 

 

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