馬との出会い【~馬にたずさわる人全てが調教者~2】
今、私が調教依頼を受け北海道から来た1才の馬は、
馬運車(ばうんしゃ)におとなしく乗ってクラブにやってきました。
人が曳き手(ひきて)を持って馬を降ろそうとすると、
その不安気な表情からまだ人に対して安心感がない事を感じました。
馬運車から降ろす時、立ち止まって動かずおとなしい馬という感じでしたが、
実際は怖くて動くことができないでいたのではと思います。
人に曳かれる事もほとんど経験していないようで、曳かれている人にぶつかりまともに歩くこともできませんでした。
洗い場に繋がれてもビクビク・・・広い枠の中で身動きできないと悟ると、
後ろに下がり全身の力をこめて立ち上がるようにして鎖を切ってしまいました。
束縛から解放され何処でも自由に行けるのにその場に立ち止まったままボーっとしていました。
おそらく馬自身何から逃げたらいいのか、何を頼ったらいいのか、何処へ行ったらいいのか何も分からない状態で、
ただ恐怖心だけが敏感に反応して動くこともできなかったのだろうと思います。
馬房(ばぼう)の中でもしばらく落ち着きのない状態が続きました。
しかし幸いなことに食欲はあり、手から与えた人参もすぐに食べてくれるようになりました。
1週間程は無口を付けたまま馬房の外から人参をあげ、
私を“おいしいものをくれるこわくないおっちゃん”と覚えてもらうことだけに力を注ぎました。
生まれてからずっと母親と一緒で楽しく平和に暮らしていた所へ突然人間が来て、
母親と引き離し遠くの見知らぬ所へ連れてこられたのですから怖くないはずがありません。
近づいて来る人間はどんな人かも分かりません。
生産牧場も大変な仕事で手間を掛けても収入には繋がらないでしょうが、ここでの人間の役割は重要です。
まず母馬が人間を信頼していること、母馬と仔馬の間に人が入っても母馬は自然に振舞っていること、
人が親と仔の間に立って母馬が楽しく人とコミュニケーションをしている様子を仔馬に見せ
“人間は信頼してもいいんだ”としっかり刷り込んで置くことで仔馬が安全に、
怖がることなくスムースに成長する可能性を大幅に高めることができるのです。
牧場の方は、そんな事当然してますと言うでしょうが、やりすぎてダメなことはありません。
本当に愛情を持って、その仔馬の将来のためにも!
平成28年5月
長谷川雄二
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