【地を這うような練習】
先日試合に出てきました。
通っている乗馬クラブではなく、別の場所での※貸与馬の試合です。
(現地で馬を借りて出場する試合のこと)
毎年1度行われるこの試合は私にとって
1年の締めくくりでした。
普段馬場メインの私が障害の練習をしているのは
この試合に出るためでした。
毎年、ハプニングがあるといったらこの試合で。
落馬失権、反抗失権など、
普段かかない恥を高確率で
かいてきました・・。
それでも、どうしても完走したくて
練習しました。
週末ライダーの私が騎乗回数を増やすことは難しく、
平日は筋トレ、動画で研究、
週末は跳ぶ!
のはずが・・・
試合前の一ヶ月、私にとっては高い障害の
試合があることを伝えていたにも関わらず
先生は基礎からのやり直しを命じました。
目的は、【バランスの強化】です。
まず、鐙をとても短くされ
そのままずっと立ち乗り。
レッスン中ずっと、その状態。
後半は足の筋が限界を迎えるほど痛くなり、
自主休憩を余儀なくされる始末。
その練習の中で、浮き彫りになる自分の未熟さ。
速歩・駈歩の中で自分のバランスを取ることが出来ないのに
障害を跳んできた自分。
そんな人間が乗っているのですから
馬が飛ばなくなったり、障害前で止まったりするようになるのは
当たり前ですよね。
何週かそのような練習を重ね、やっと跳ばせてくれた障害は
クロス障害。(横木をバッテンにさせた低い障害物)
今までは、自分の技量以上の障害を馬に跳ばせていただけだったと
とても反省しました。
毎週、ほんの少しだけ、自分の中に安定を感じて来ました。
「芯」と言うか、動く馬の上で自立できるバランス感覚です。
地を這うような練習を続け、最終練習でもキャバレッティの中に
30cm位の垂直を入れるような、そんな練習しかできませんでした。
十分な練習ができずに不安になる私に先生は言いました。
『大丈夫、バランスは確実によくなってきてる。
高さは問題ない。がんばりや!』
私はその言葉を信じて本番に臨むしかありませんでした。
本番当日コース下見の時、最近跳んでいない高さに
エントリーしたことを後悔しました。
しかも乗るのは初めての馬で、練習時間は3分しかありません!
「怖い。」
それしかありませんでした。
でも、後戻りはできません。
嘘でも、自分を信じるしかないのです。
あっと言う間に練習時間が終了、
やるしかない、駈歩入場です。
1番のオクサー障害を飛越、なんと大跳びされています。
しかし、2番を無事跳んだところから平常心を取り戻し
フラットワークをするかのような余裕の感覚で
踏み切りを見据えて跳んでいきました。
「この馬は、魔法の絨毯のようにふわふわした乗り心地だな」
「気持ちいいな」
頭の中はそんなことを考えていました。
こんな感覚は始めてでした。
いつも、コース走行中は必死でドキドキしていましたから。
気づいたらゴールを切っていました。
私は、やっとこの景色を見ることができたのでした。
昨年、歌手の華原朋美さんが馬術の試合に出たのが
TVなどで大きく取り上げられましたね。
華原さんは愛馬「キャリーズサン」と共に
数々の国内の障害飛越競技に参戦しました。
キャリーズサンは、ドイツ産のホルシュタイナー。
六段飛越競技で日本記録更新となる199cmを飛んだことで
有名で、伝説の白馬とも呼ばれているそうです。
そんな最強馬とペアを組んだ華原さんは
130cmの高さの障害も
見事に飛越していました。
そんな華原さんですが、
2017年8月 ドイツへ馬術留学のチャンスを得ます。
ミューレンのポール・ショッケメーレ厩舎で世界のトップ選手を育てたドイツ人トレーナーのもとで
短期の指導を受けることになったのです。
始めに低障害を飛ぶように言われた華原さんでしたが、
それを見てトレーナーは、
『まだ障害は跳べない。キャバレッティ(横木通過)から始めましょう。』
と告げたのでした。
一時は自信を喪失し、落ち込んだ華原さんでしたが
その後、気持ちを切り替えて筋トレや低い障害など
地道な練習を続けました。
すると、トレーナーからやっと褒め言葉が出だしたのです。
低い障害を跳んだ時でした。
帰国した華原さんは、愛馬キャリーズサンと共に
全日本障害馬術大会出場。
五輪出場選手など日本トップクラスの100人馬が出場するこの大会で
華原さんとキャリーは上位60名のみが進める決勝への進出を果たしました。
ドイツ留学前、キャリーズサンとの出場した大会では
落馬が続き、完走するのはこの本番が久しぶりだったと言います。
華原さんがドイツ留学で得たものは、何だったのでしょうか?
障害を跳ぶのは馬です。
障害の高さが上がるほど、人間の技量が大きく飛越に影響します。
低い障害を跳ぶ時は、馬に助けてもらう部分が多い。
だからこそ、馬の邪魔をしない最低限のバランス感覚が必要です。
高い障害を跳ぶなら、こちらが馬を助けないといけません。
その為には、馬の邪魔をしないバランスを身に付けることは
当然クリアできている条件となります。
つまり、行き詰ったときは原点に立ち戻り
基礎をやり直して正しいバランス感覚を身に付けることが
結局は上達への近道であると、私は思います。
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