馬に見られる悪い癖?「さく癖(さくへき)・グイッポ」について
乗馬クラブや牧場で変な音を出している馬はいませんか。
おそらく、その馬にはさく癖があります。
さく癖は馬によくみられる悪癖ですが、その原因についてはまだ明確になっていません。
この記事では、さく癖が馬に与える影響や予防策について、ご紹介します。
この記事で分かること
・さく癖の原因
・馬体への影響は?
・さく癖の予防策
さく癖(さくへき)とは?
さく癖は牧柵や馬栓棒などの固定されたものに馬が前歯を押し当てて、「ぐい」という声を出しながら空気を吸い込むことを言います。
ゆう癖(体をゆらす)や旋回癖(グルグル回る)とともによくみられる悪癖として知られています。
空気を吸い込むときの音から「グイッポ」や「グイ」と言われることも。
軽いさく癖を見せる馬から固定したものがなくてもさく癖ができるようになってしまう馬まで、さまざまな程度の馬がいます。
悪癖と言われるだけあって、さく癖は馬にとってはよくない癖とされています。
ただ、馬は社会性が高く、いつも周囲を観察している動物。
さく癖のある馬が1頭いると興味を持って、ほかの馬が真似をしだすこともあるそうです。
さく癖をしてしまう理由
さく癖をしてしまう理由はいくつか挙げられます。
そのなかでもストレスが原因になっているという説が有力。
馬房に入ると、ほかの馬が見えなくなって孤独を感じたり、運動不足になったりして、ストレスが溜まると言われています。
ストレスが溜まると上昇すると言われる血中コルチゾール値を測定した研究があります。
さく癖をした馬では、さく癖をしたあとにコルチゾール値の低下が認められたそうです。
しかし、普段はさく癖をするのに、観察中にさく癖をしなかった馬のコルチゾール値が一番高かったため、無理やりさく癖を止めさせるのもよくないのではという考察もあります。
また別のチームでの研究では、さく癖をする馬としない馬の間に、そもそもコルチゾール値の差が認められないというものもあり、ストレスとさく癖の関係については未だ不明で、さらに研究が必要だと言われています。
ほかにも、濃厚飼料を多く与えられた馬が胃のpHをあげるために、アルカリ性である唾液の分泌をさく癖で促進させているとする考えもあるようです。
濃厚飼料はそしゃくする時間が粗飼料より少ないため、唾液の分泌時間が短くなります。
もともと低pHである胃液を含んだ胃の内容物は馬に不快感を与えたり、胃潰瘍の原因になったりします。
その胃の不快感を取り除くために、さく癖をすることによって唾液の分泌を促しているのではないかと推測している研究者もいるそうです。
馬の体に影響はあるの?
さく癖をする馬には、前歯の摩耗、胃潰瘍、疝痛のリスク増大、体重減少がさく癖のない馬より多く認められます。
そのため、さく癖は悪癖であるとされています。
特にさく癖は疝痛の原因になると考えられてきました。
口から空気を吸い込み、それが腸に溜まって発症すると考えられていたからです。
しかし、最新の研究では、飲み込んだ空気はほとんどが気道に留まり、胃まで到達する空気はほんの一握りであることが分かりました。
そのため、疝痛の原因になるほどの空気が腸に到達するとは考えにくく、直接的な原因ではないという考えが現在では主流のようです。
慢性的に軽い疝痛のある馬がさく癖をしているのではないかと考えている専門家もいて、関連性については明確になっていません。
対照的に関連性があると言われている疾患に網嚢孔(もうのうこう)ヘルニアがあります。
網嚢孔は馬の背中側、肝臓と膵臓の間にある穴です。
さく癖によって腹圧が上昇し、この穴に腸管が引きこまれてしまうことが原因であると考えられています。
この網嚢孔ヘルニアが発病すると急性の疝痛を呈します。
発病した馬の約半分にはさく癖がみられたという研究報告もあり、発病リスクはさく癖がない馬の72倍にも上るそうです。
乗馬用語集:【疝痛】
さく癖を予防するには?
疝痛や病気のリスクを抑えるためにも、さく癖をさせないのが一番です。
さく癖の原因は明確になっていませんが、専門家が要因として有力だとしている「ストレス」と「濃厚飼料」については、人間の管理によって改善できます。
馬房にいるとストレスが溜まってしまう馬には、放牧時間をできるだけ長くしてあげるのが一番手っ取り早い対処方法でしょう。
また、馬房にいるときには隣にいる馬が見えるように工夫して、孤独を感じないようにしてあげるのも◎。
馬房で退屈してしまう馬には、馬用のおもちゃを与えるのもいいでしょう。
濃厚飼料は運動量の多い馬にとって、どうしても必要なものですが、与えすぎには要注意。
ただ色々と試してみても、やっぱりさく癖を止められない馬もいます。
そんな馬たちには、普段さく癖をするときに使う牧柵や馬栓棒に、馬の嫌う味やにおいのする「さく癖防止クリーム」を塗ってみましょう。
それでも、さく癖が止まらない馬には通称「グイバンド」と言われる、さく癖防止用のバンドを首に装着します。
グイバンドにも効果の弱いものから強いものまであるので、まずは弱いものから試してみましょう。
まとめ
さく癖はよくみられる癖ですが、その原因や疝痛との関連性ははっきりとしていません。
しかし、環境を整えたり、グイバンドを使ったりするなどの対策を施せば、さく癖をしなくなる馬も多いようです。
まずはできるところから、少しずつストレスの少ない環境を整えてあげるようにしましょう。
ストレスの緩和は、さく癖に限らず、馬たちのウェルビーイング全体にいい影響を与えるはずです!
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